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計算科学研究センターの将来構想 分子研リポート2001 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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将来計画及び運営方針 253

5-3-1 現在の計算機システムと運用

2002年2月現在の計算機システムの概要を下図に示す。図の左側は2000年3月に導入されたスーパーコンピュータ システムであり,来年度に更新が予定されている汎用高速演算システムが右側に示されている。

スーパーコンピュータシステムは,富士通製 V PP5000 と S GI 製 Origin から構成される。V PP5000 は 1 C PU 当たり の最高演算性能が 9.6 Gflops のベクトル演算装置30台から構成され,各 C PU に 8 ∼ 16 GB の主記憶装置を持つベクト ル並列計算機である。一方,S GI Origin は 1 C PU 当たりの最高演算性能が 0.6 ∼ 0.8 Gflops のスカラ演算装置 320 C PU から構成され,C PU 当たり 1 GB の主記憶をそれぞれの C PU から共有メモリとしてアクセスが可能な分散共有方式の 超並列計算機である。V PP5000 では高速なベクトル演算能力を活かした大型ジョブの逐次演算処理はもちろん,例え ば8台以上のベクトル演算装置を使った大規模なベクトル並列演算が可能となる。Ori gi n2800/3800 は Non U ni form Memory A ccess(NUMA )方式と呼ばれる論理的な共有メモリ機構を有する。NUMA は主記憶装置が各 C PU に分散し て配置されているため C PU から主記憶へのアクセス速度が非等価ではあるが,利用者プログラムから大容量のメモリ を容易に利用することが出来,大規模な並列ジョブの実行が可能となる。1998年度に導入された NE C S X -5 は 1 C PU 当たり 8 Gflops の最高演算能力を持つ共有メモリ型ベクトル計算機であり,S P2 は 48 C PU から成る分散メモリ型スカ ラ並列計算機である。現在,更新予定の汎用高速演算システムは,ベクトル演算に適したプログラムを高速に処理す ることが出来る“ 主システム” と,中大規模なスカラ並列演算処理が可能な“ 副システム” から構成される点は,既 存の汎用システムと同様であるが,大幅な性能向上が期待されている。今後もこれらの計算機の特徴を活かしつつ,利 用者ジョブの効率的な実行環境を構築することがこれからのセンターの課題である。

Fujitsu VPP5000 30PE 256GB Peak 285Gflops 4TB Disk

SGI Origin3800 256CPU 256GB Peak 153Gflops 4TB Disk

Front-endo NEC TX7/K370

CISCO Catalist 5500

File Server Compaq AlphaSever4100

6node 96G B Hitachi SR8000F1 Peak 72Gflops IBM SP2 48node 8GB Peak 4.4Gflops NEC SX-5 4CPU 32GB

Peak 32Gflops

2002年2月現在

5-3 計算科学研究センターの将来構想

図1 計算機システムの概要

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254 将来計画及び運営方針

本計算科学研究センターの前身である「分子研電算センター」はこれまで全国700人におよぶ分子科学者に対して文 字どおり「共同利用施設」としてサービスを提供してきた実績をもっている。これは,他の研究機関の「電算センター」 がその利用者の大部分を事実上その機関内に閉じていることを思うとき,「分子研電算センター」が誇るべき偉大な実 績であり,今後も「計算科学研究センター」が継承すべき特色である。しかし,一方,ワークステーションや高性能 のパーソナルコンピュータの普及に伴って,これまで「計算機センター」が果たしてきた役割の一部が変更を迫られ ていることも確かである。これまで計算機センターを利用して行われていた計算のかなりの部分がワークステーショ ンやパソコンで簡便に行えるようになり,「煩わしい手続きをして大型センターを利用するまでもない」と考えるユー ザーも増えている。他方,国際的には米国を中心に超並列マシンの性能を極限まで使って初めて可能になるような計 算が報告されつつあり,このままでは我が国の理論化学が国際的に遅れをとってしまうという危機感も生まれている。 すなわち,一方では「できるだけ多くの研究者へのサービスの提供を維持」しながら,他方では「世界のピークを目 指すような大規模計算を可能にする」という「二兎を追う」ことを要求されている。このような要請に応えるため一 昨年,計算科学研究センター運営委員会では計算資源の利用枠を「一般利用」と「特別利用」に2本化することが提 案され,昨年度から実運用と審査基準の準備を進めてきた。「一般利用」はこれまでとほぼ同様の計算機利用形態であ り,同様の手続きで申請を行う。他方,「特別利用」は毎年少数の大規模計算プロジェクトに計算資源の一部を供する ものであり,特別の申請手続きと審査を経て許可されるものである。平成14年度の例としては,S GI Origin 計算資源 の約 1/4 に相当するリソースを1つの研究プロジェクトに割り当てられる特別申請が許可された。現在 V PP5000 の一 部の C PU 資源も特別申請の対象と出来る運用準備を進めており,今後ますますこの様な質の高い大規模計算プロジェ クトに利用され研究成果を上げることが期待される。

5-3-2 計算科学研究センターを巡る状況

「計算科学研究センター」(以下,「センター」と略)が発足(機構化)して2年が経過しようとしている。昨年度の

「分子研リポート」において,我々は「センター」の将来構想に関して二つの点を明確にした。ひとつは700名近い分 子科学研究者の共同利用施設として旧「分子研電算センター」が果たしてきた役割は全く変わっていないこと。他の ひとつは計算科学分野における生物関連の計算や情報処理の重要性が増大しており,今後,この傾向は益々強くなる ことが予想されることである。(このことが「電算センター機構化」の主な動機であったことは言うまでも無い。)そ して,これら二つのファクターを満たすために,今後の「センター」の構想を「長期」と「短期」の二つに区別し,長 期的には生物系2研究所との協力でいわゆる「生物情報」を含む生物関連の情報処理分野の充実を視野に入れながら, 短期的には「分子科学」と「生物科学」の「境界領域」の計算科学を発展させることを提案した。この長期的構想に 関しては,昨年度,基生研に「情報生物学研究センター」が発足し,そこに「生物情報」の専門家が招聘されること が予想されるため,その第一歩を踏み出したと言えよう。今後,「情報生物学研究センター」との連繋により,この分 野のマシンやスタッフの充実を図る必要がある。一方,短期的構想については,その第一歩として「分子科学と生物 科学の接点」と題するワークショップを開催し,分子,生物両科学の境界領域で働く研究者の交流を進めた。

「計算科学研究センター」を巡る内外の状況に,昨年度,いくつかの新たなファクターが加わった。そのひとつは分 子研を含む物質科学系5研究所(分子研,東北大金研,東大物性研,京大化研,高エネ機構・物構研)が共同提案し ていた学術創成研究が認められ,この秋にはスーパー S INE T を介して分子研・金研・物性研計算センター間のグリッ ド計算が可能となることである。もうひとつのファクターはナノテクノロジーに関わる国の施策が大きく進展し,分 子研にもこの4月から「分子スケールナノサイエンスセンタ−」が発足することである。

(3)

将来計画及び運営方針 255

「センター」ではこれらの発展をふまえて,上記5研究所が連携した「ナノサイエンス」を主題とする新しい「計算 科学」プロジェクトを国に提案する方向で検討を開始した。現在,いわゆる「ナノテクノロジー」という言葉から想 像されるのは,L S I 加工技術や記憶媒体の高密度化など計算機製造にまつわる工学研究である。また,化学における

「ナノテクノロジー」も「ナノチュ−ブ」や「ナノワイヤー」など主としてその固体電子物性に着目した分野であり, 実際,これらのナノ物質が示す新しい物性や機能は電子工学などの応用面で大きな期待がもたれている。これらのい わば「剛いナノ物質」の物性や機能を理論的に解明する計算科学も本提案のひとつの主題であり,主として,東大物 性研と東北大金属研が分担することになろう。一方,分子やその集合体の中には蛋白質や超分子あるいはミセルなど ナノスケ−ルである決まった形態をとったときに初めて機能を発揮する一連の物質が知られており,これらに関して は主として「センター」と分子研理論グループがこの問題を担当する。これらの物質は,通常,溶液中に存在し,あ る平均的な構造(形態)のまわりで統計的に「揺らぐ」ことを特徴としており,この「構造・形態の揺らぎ」が機能 と密接に関係している。われわれはこの意味でこれらの物質を「柔らかいナノ物質」と名づける。「柔らかいナノ物質」 の代表格は蛋白質と細胞膜(リン脂質2重膜)であり,その意味で,本プロジェクトは昨年度「将来構想」で提案し た短期構想である「分子科学と生物科学の境界領域」の具体化という側面ももっている。

以下,「センター」を中心にした「計算ナノサイエンス」プロジェクトの主旨を述べる。

5-3-3 計算ナノサイエンスの提案

生体内における化学反応は「酵素」というナノサイズの分子を触媒として起きており,酵素機能が発現するために は蛋白質が「自己組織化(フォールデイング)」して特異な構造をとらなければならない。金属が「触媒」としての機 能(電子物性)を示すためには金属原子が溶液中で集合してあるサイズになる必要がある。また,界面活性剤などの 両親媒性分子が化学反応の反応場として有効であるためにはそれらが集まってミセルやベシクルなどのナノスケール の分子集合体を形成しなければならない。これらの例に見られるように,自然界にはナノスケ−ルで初めて機能が発 現する現象が数多くあり,これらの集合体ができるためには,まず,バラバラの分子や原子がエントロピーの障壁を 越えて集まる必要がある。しかも,原子や分子がただ集まれば良いのではなく,例えば,「化学反応」という「機能」 が発現するためには,「ナノ集合体」の化学的性質が原子レベルで制御されていなければならない。ナノ集合体を特徴 づけるさらに重要な性質はそれら全部が同じサイズではなく,ある平均値の周りに分布していることである。自然界 の化学過程はこのナノ集合体の「形態安定性」と「揺らぎ」を巧みに使ってコントロールされているのである。そし て,ナノ粒子の形態安定性,揺らぎ,および機能は,ナノ粒子が置かれている溶媒環境によって支配されている。し たがって,もし,われわれがこの自然界の化学過程に学びその法則を理解すれば,それが医療や生産など人間社会に 有用な科学・技術の基礎と成り得ることは理解に難く無い。

本プロジェクトの第一目的は計算化学・物理と情報技術(Ionformation T echnology)の手法を駆使して,溶液中に起 きるナノ集合体の自己組織化,形態変化,揺らぎ,機能発現の仕組みを支配している自然原理を明らかにし,その上 でこれに基づいて形態,機能を予測するなど,ナノスケールの「柔構造」を特徴とする新規物質創製に有用な理論的 方法論を構築することにある。本プロジェクトの意義は単に上に述べた「実用的」な目的の達成に止まらず,新しい 基礎学問分野の確立という大問題への挑戦という側面をもっている。それはこの問題がこれまでの伝統的な物理・化 学の理論的方法論の枠組みを大きくはみ出した研究対象だからである。

これまでの伝統的な方法論は,例えば,形の決まった1個の分子の電子状態や原子や分子が格子状に綺麗にならん だ結晶などいわば「硬い物質」に対しては極めて有効であった。また,多体系でも通常の水のように均一な液体系で

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256 将来計画及び運営方針

は分子シミュレーションや統計力学が定量的あるいは半定量的なレベルで現象を記述できる程度に確立していると言っ てよい。また,いわゆる「自己組織化」という問題についてもこれまで理論的研究が行われなかったわけではない。例 えば,ミセル形成のシミュレーションは界面活性剤分子の疎水基同士がお互いに「引き合う」ということを考慮した 直感的(経験的)なモデルのレベルでは多数のシミュレーションが行われている。しかしながら,これらの方法は上 に述べた実際の化学・物理プロセス(溶液中ナノ集合体の自己組織化,形態変化,揺らぎ,機能発現)のある側面を 全体から機械的に切り出しすることを前提に構築されたものであり,その有機的連関を無視したことに起因する様々 な問題を内包している。すなわち,「群盲,象をなでる」ことによる自然描像の誤った記述や実験の「後追い説明」に 堕する危険性を免れ得ないのである。例えば,最後に述べたミセル形成のシミュレーションの例では,ミセル分子の

「疎水基同士が,何故,引き合うのか」という基本的な疑問が説明されていない。これは界面活性剤分子が存在する「水」 という溶媒環境を極端に単純化したためである。このようなモデル化では相互作用の本質が正しく捉えられていない ため,溶液の組成や温度など環境の変化に対応できず,それらが変わる度に経験的な相互作用パラメタを準備しなけ ればならない。すなわち,実験結果に「理屈」をつける理論ではあり得ても,実験を「予測」する理論とは成り得な いのである。ナノスケ−ルの理論科学で,何故,このような問題が生じるのか? それは「ナノ」がまさにミクロと マクロの中間にあり,量子力学や力学で全部を解くのには大きすぎ,一方,統計力学や流体力学などの巨視系に対す る方法論の対象としては小さすぎて「揺らぎ」や「不均一性」が本質的な位置を占めるからである。

このような問題を解決するためにはこれまでの伝統的な方法論だけに固執するのではなく,それらを融合した新し い「方法論」の確立が必要であろう。本プロジェクトは理論化学・物理における3つの流れ(統計力学,分子シミュ レーション,量子化学)を「計算科学」というプラットフォームに統一して,溶液内ナノ現象を解明する新しい理論 化学の構築を目指すものである。

参照

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